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エリーゼのために 小学生のころの、ピアノの発表会での出来事である。僕はステージで「エリーゼのために」を弾いていた。 演奏中に左の薬指がヌルッとしたので手元に目をやると、なんと鍵盤にべっとりと血がついていたのである。 僕はかなり驚いたのだが、演奏中だし発表会である。事態を把握できぬまま、ピアノを弾き続けた。しかし動揺は隠しきれず、その後何度もミスタッチをしてしまった。 後に明らかとなったこの「流血のエリーゼのためにミスタッチ事件」の真相はこうである。 僕がピアノの前に座ると同時に、腹を減らした蚊が、僕の左の太ももにとまる。何も知らない僕は演奏を始める。蚊は演奏を聴きながらチュウチュウと血を吸い始める。僕は演奏に夢中になりながらも、左太ももが痒いなと感じた(と思う)。蚊はたらふく僕の血を吸い続ける。「エリーゼのために」は曲中一小節だけ右手だけになる箇所があり、僕は空いた左手で無意識に痒い太ももを掻く。満腹の蚊は逃げ遅れて僕の薬指に潰される。そして、鍵盤にべっとりと血がつく。僕は動揺し、ミスタッチを繰り返した。これが真相である。 蚊による僕への演奏妨害事件はこれにとどまらない。今度は音楽の授業、リコーダーのテストのとき、その事件はおきた。 順番に課題曲を吹かされて、自分の番となった。すると演奏を始めるとすぐ、一匹の蚊が、僕の目の前にやってきた。 僕は心の中で「あっち行け!」と念じながらリコーダーを吹き続けたが、蚊はしばらく頼りなさそうに目の前をフラフラと旋回したかと思うと、ついに僕の鼻の頭にとまりやがった。 両手が塞がっている僕は、手で払いのけるわけにいかないので、首を振ったり、顔をクシャクシャにしたりして追っ払おうと努力はしたけど、その間抜けな蚊は意地になったのか、ちっとも動こうとしないのである。 そこで僕は、最後の手段とばかりにリコーダーをラッパのように持ち上げながら唇を上向きにして、鼻息を思いっきり「フンッ!」と吹きかけた。蚊は見事吹き飛んだが、「フンッ!」と同時に「ピイッ!」という耳をつんざく超高音をリコーダーから発射してしまった。 「コラ〜!ふざけるな〜!」先生が真っ赤になって怒鳴った。 演奏中に首をフリフリ、顔をクシャクシャ、とどめはリコーダーをラッパにして「ピイッ!」ときたので先生はふざけているとしか思えなかったようだ。実際僕はいつもふざけたガキだった。でも、そのときは事情が違っていたので、言い訳しようとしたのだが、「もういい!座れ!」と僕の演奏は中断されてしまった。 悲劇のトロンボーン この二つの事件をきっかけに、僕は演奏中の蚊の攻撃にはだいぶ気を使うようになった。 しかし、その気づかいが裏目に出た悲惨な事件がまた発生してしまう。 その日の僕は市民会館のひな壇の上で、吹奏楽の一員としてトロンボーンを吹いていた。コンクールではなかったが、何かの記念式典の発表会だったと思う。 またしても左前方に蚊が旋回しているのを発見した。放っておいても危険な距離ではなかったのだが、二つの事件が頭をよぎり「あっち行け!」とばかりに、一番スライドを伸ばす「レ」の音のとき、蚊めがけてトロンボーンのスライドを思いっきり伸ばした。 しかし、スライドの先端は蚊に当たらず、なんと譜面台を直撃した。 ガッシャン、ガラガラーと譜面台は派手な音をたてながらひな壇を転がり落ちていった。 僕は恥ずかしさと申し訳なさで、その場から消えてなくなりたい気持でトロンボーンを吹き続けた。 演奏後に先生からこっぴどく叱られたのは言うまでもない。 なぜにこうも、蚊は演奏を邪魔しに来るのか?それはズバリ、蚊も音楽好きなのである。 蚊は人の発する臭いや、二酸化炭素に集まってくると言われているが、音にも集まってくるということを、最近読んだ本で知り、僕は大いに納得した。 音階で言うと、特に「ラ」の音が集まりやすいのだそうだ。 「ラ」と言えば音楽の基本の音といってもいい、楽器のチューニングの音は「ラ」から始めるし、調律に使う音叉や、弦楽器の開放弦の音も「ラ」だし、さらに赤ちゃんの最初の産声も「ラ」に近いらしい。ついでに時報まで「ラ」だ。蚊が音楽に寄ってくるのも当然である。 「ラ」という音は周波数でいうと440Hzである。つまり、一秒間に空気を440回振動させるわけである。 蚊も一秒間に約440回ほど羽を動かして飛ぶのだそうだ。だから蚊の羽音はプ〜ンとかん高い。その高さが「ラ」なのである。 しかし、よく調べてみると「ラ」の音に集まる蚊はメスを求めてさまようオスだけなのだそうだ。蚊のオスは血を吸わないのである。 僕は愕然とした。リコーダーの蚊もトロンボーンの蚊もほっときゃよかったと。 エキストラバージンオリーブオイル 蚊が血を吸うだけなら、たいした量でもないので、くれてやってもいいのだが、刺されると痒くなる。これが嫌だ。蚊が血を吸うときは、そのまま吸っても血が固まってうまく吸い上げられないらしい、そこで血が固まらないように、唾液腺から液を注入する。これが痒みのもとだというのだ。 ならば百歩譲って、痒いのは我慢するから体にいいビタミンかなんかを注入してくれれば許せる。 ついでに吸うときは血の中から体に悪い成分を検出して吸い取ってくれる蚊がいたら、生活習慣病で悩む大人たちは大助かりというものだ。 先日僕も健康診断で、中性脂肪とコレステロール値が高いのを指摘されてしまった。 殺虫剤メーカーも蚊をやっつける研究ばかりしないで、コレステロールや中性脂肪を吸い込む蚊の品種改良にいそしんでみてはどうだ!などとこの季節になるといつも思うのである。 まあ、とりあえず今のところ、蚊にコレステロールや中性脂肪値を下げてもらうのは期待できないので、さすがに僕も食生活に気をつけるようになった。 僕が今のところ目をつけているのはオリーブオイルである。 オリーブオイルを多く摂る地中海地方の人々が、動脈硬化や肥満や糖尿病などの生活習慣病にかかりにくいのは、オリーブオイルのオレイン酸の作用だといわれている。 オレイン酸はコレステロールの善玉を体内にとどめ、悪玉を体外に追いやるという、ありがたい働きをしてくれるのである。 このように体にいいと言われるオリーブオイルの中でも、少々値は張るけどエキストラバージンと呼ばれるオリーブオイルは特にお勧めである。 このオイルはオリーブから最初に絞られた自然のままのオイルである。化学処理を一切行なってないため、香り、風味共に申し分ない。 このため、エキストラバージンに火を通すのはもったいない。生で食するのが一番である。 今回はシンプルだけど、エキストラバージンのうまさが冴える、イタリアンサラダのレシピを紹介しよう。 レシピではバルサミコ酢と合わせてドレッシングを作っているが、生野菜に塩をふってエキストラバージンをかけただけでも十分うまい。 ぜひ一度、生のエキストラバージンをお試しあれ。 |
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