エッセイ
ホーム  クレヨン社  アルバム  加藤秀樹  柳沼由紀枝   
秀樹塾  50の問答  エッセイ  スタヂオ 蔵出し音源
 

ラヂオの時間

ひとり勝ちのレコード業界

1990年ごろから、100万枚を越す売上の、いわゆるミリオンセラーレコードが続出している。
 かつてのミリオンセラーは、せいぜい年に1〜2曲で、老若男女を問わず売れたし、その曲は誰もが口ずさめた。
しかし90年以降のミリオンセラーは年に十曲を軽く超え、買い求める層は10代20代の若者だけで、他の世代はその曲名さえ知らない、という現象が続いている。
 これについて精神分析学の和田秀樹氏はこう分析している。
「メランコからシゾフレへ、という大変化が日本の社会、ことに若者層に起きている」
 人はメランコ(躁うつ気質)とシゾフレ(分裂気質)の二つの気質を持ち合わせているという。
メランコ人間の特徴は「自分が主役」で頑固なこだわりタイプだ。ある曲がヒットしているからといって、すぐには飛びつかず、自分が、これだ!と思わない限り、CDは買ってくれない。
一方、シゾフレ人間は「周囲が主役」なので、その曲がヒットしていたり、周りが勧めてくれたりすればすぐに買う、という特徴がある。
和田氏は一人の中に、このメランコ的側面とシゾフレ的側面の両方のバランスが取れている気質が好ましいという。
しかし国家や民族や世代などの人間集団の単位で考えた場合、メランコかシゾフレのどちらかの傾向に傾いている、ということを見ることができるそうだ。
そこで最近のレコード売上状況から判断すれば、今の10代20代の若者たちは、シゾフレ傾向が強い世代だと考えられるわけである。
シゾフレ人間は「周囲が主役」なため「こだわりがない」という点では自由なのだが、その分流行に流されやすく、何かが流行ると、すぐに飛びつき、冷めると見向きもしない傾向もあるという。 
今の日本は40代から上の世代がメランコ的傾向、それより下の世代、ことに10代20代がシゾフレ的傾向にあるといわれる。つまり、ある世代を境にタイプが正反対の者どうしが共存しているわけである。
「いまどきの若者は・・・」はよく聞く話だが、若者からすれば「いまのオヤジたちは・・・」も当然のセリフなのだ。

メランコなラジオ

とはいえ、いくら今の若者がシゾフレの時代とはいえども、「他人と違う自分でいたい」と思うメランコな若者も少なからずはいるわけで、相変わらずCDの総売上のほとんどを、オリコンチャート上位が持っていくなか、インディーズのレコード業界も細々ながら健在ではある。
ビッグアーティストが東京ドームや武道館を満席にする一方でも、無名の新人アーティストの出演する小さなライブハウスは、メランコな若者で活気に溢れている。
今、世の中は音楽業界に限らず、シゾフレな若者をターゲットに市場が動いているわけだが、こんなふうに少数派のメランコな若者が集う場所はあちらこちらで、見つけることができる。
そのひとつにラジオは欠かすことができない媒体であると僕は思っている。
僕は音楽ユニットを組んでいて、かつて相方の女性ボーカリストと一緒に、ラジオ番組のレギュラーを三年ほど続けたことがある。
リスナーのほとんどが10〜20代で、彼らからのハガキ紹介を中心に番組は構成されていた。
単発ものの軽いノリや、ウケ狙いのハガキも多かったが、今思えば毎回欠かさずハガキをくれる常連達は、メランコ気質がほとんどだったような気がする。
シゾフレが飽きっぽいのに対し、メランコは一度気に入ったら頑固にこだわり続けるという特徴があるからだ。
もっとも、ゴールデンタイムの人気のテレビを見ずに、あまり知られてないアーティストのラジオに針を合わせる彼らである。どこか他人とは違う、かけがえのない自分を見つけようとする気質はすでにあったのだろう。
彼らは常に自分を真摯に見つめ、生き方を模索しているようにも見えた。
そんな彼らのハガキには恋愛や友達の悩み、将来の夢などが熱く書かれていた。僕もハガキを読みながら、青春時代を彷彿とさせられたものである。

マイナークッキング

そんな青春系のハガキが常連達の中では最も多かったのだが、次に多かったのが、自分しか知らないような超マイナーな話題だった。
中でも、食べ物に関するマイナー情報ばかりを送ってくる高校生の常連リスナーがいた。
カップヌードルシーフード味に、お湯の代わりに熱い牛乳入れて食うとうまい、とか、吉野家の牛丼はつゆだくで注文し、肉を先に食って、残ったご飯に紅生姜とお茶をかけたお茶漬けは最高、とか、彼のレシピは常に独りよがりだったけど、独創的でもあった。 
僕も番組活性化のため、やむをえず体験リポートと称して、いくつか試してみることにした。すると、全く期待してないぶん、思わずうまいと言ってしまうような料理も確かにあった。
彼のハガキと僕の体験リポートが以外にも好評だったので、これを機に「マイナークッキング」というコーナーを番組内に設けることにした。
人には恥ずかしくて言えないけど、こっそりひとりで楽しんでいる料理や、食べ方を教え合うコーナーである。
このコーナーは予想以上に反響があり、メランコな若者たちから毎週多数のハガキが届くことになった。
優秀作品には図書券と、僕の体験リポートを発表するという、ふれこみだったので、それからはずいぶんとマイナーな料理を試食する日々が続いたものである。

オイルサーディンパン粉焼き

 マイナークッキングの試食体験の中には、とんでもなく恥ずかしい食べ方や、味もとんでもない代物もあったのだが、なかなかいける料理も結構あった。

スパゲティーを固めにゆで、ネギを加えソースで炒める「スパソース焼きそば」

具はのり、味付けは醤油だけの「貧乏チャーハン」

あったかご飯に、市販のうなぎのタレだけかけて食う「すっきりうな丼」

揚げ玉を麺つゆで煮込んで、ご飯にかける「ぽんぽこ丼」
 
「ごはんですよ」に納豆を混ぜた、その名も「納豆ごはんですよ」
 
きのう残ったすき焼きに、じゃがいもを加えて煮込む「すきすき肉じゃが」
 
きのう残ったポークカレーに、味噌汁を加えて温めた「カレートン汁」

・・・などが印象に残っている料理だ。その中でも今回は、僕の定番メニューとなっているレシピを紹介しよう。
「オイルサーディンパン粉焼き」である。
 これは缶詰のまま調理できるという、手間いらずなのに、見た目も貧乏臭くなく、ホクホクと香ばしい。
焼きたてにレモンをしぼって食べると、酒のつまみにはもってこいである。缶詰ひとつが一人前なので、メランコな人は、一人の夜にでも、ぜひ試してみて欲しい。
 ポイントは自分のために一人で楽しむ、である。

<戻る